【漂流者】
愛する人に、自分の気持ちを受け止めてもらえなかったからといって、その気持ちを他に向けられるだろうか。
愛していながら別れたとき、「もう忘れなさい」と言われても、そう簡単には忘れられない。
愛する気持ちがとどかなくて、「あきらめる」と言ったところで、愛する気持ちまでがなくなってしまうわけではない。
愛する気持ちが残ったまま別れたとき、人の心は暖かいところを求めて漂流をはじめる。届かなかった愛情の亡霊を背負ったままの漂流は、とても不安定で、暖かいものがあると、それが何であるかも確かめずに、しがみつこうとする。
とても危険なときだ。
誰かを愛せば、忘れられる?
そんなことはない。
そんなことをすれば、さらにもうひとつ、愛情の亡霊が生まれてしまう。
「こんどこそ、この人を愛しているんだ」と思うかもしれない。しかしそれは、自分自身に対する言い訳でしかない。本当は、その人に前の彼の影を重ねているにすぎない。
つきあいが深まっていくにしたがって、しだいにそのことが、はっきりしてくる。そうなったとき、どこまで自分自身をだまし続けられるか。「自分が愛していたのは、この人じゃないんだ」とわかったときに、それを認めることができるか。
認めてしまえば、あとは別れが待っているだけ。そしてそのとき、相手があなたを本当に愛していたとしたら、またそこに愛の漂流者が一人生まれる。
漂流者のあなたが、新しい漂流者を作り出してしまう。
認めなければ、偽りの愛が続くだけ。いつか、どうにもならなくなって、愛が破綻するまで……。
もちろん、こんな形で始まった交際からも本物の愛が生まれることだってある。しかしそれは、ごく例外的なものだということを覚えておいて欲しい。
愛の漂流者に必要なのは、彼との歴史が思い出に変わるまで休める場所をみつけること。そして、それは男の胸であってはならない。
彼の代わりを求めてはならない。
前にも書いたことがある。「あなたにしみついた彼の影を洗い流したとき、あなたは新しい彼の前に胸を張って立てるんだ」と。
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