【紀子 その後】
紀子の彼が名古屋に突然転勤になった。
なぜこの時期に、と思うが分からない。
彼がそれを望んだのか、それとも彼は行きたくなかったのに会社の都合で行かされたのか。
本当のところは分からない。
ただ、彼が単身赴任ではなく、家族とともに名古屋に引っ越して行ったことは事実だ。
そして、そのことは紀子には大きなショックだった。
2週間ほど、紀子は大荒れに荒れた。
俺もその間、ずいぶんつきあわされた。
何をしでかすか分からないと不安になったほどだった。
そして今、紀子は少しずつ変わってきている。
まだ、時々は彼と会っているようだ。
なにしろ、名古屋と東京なんて、新幹線で2時間足らず。会おうと思えばいつだって会える距離だ。
ただ、今までのようには行かない。
それが紀子を少しずつ変えている。
あるいはどこかで新しい恋に会えるのではないか。そんな風に期待できる変わり方だ。
紀子のことでは、俺もいろいろ考えさせられた。
今まで俺が紀子に話してきたことは、本当に紀子のためになったのだろうか。
かえって紀子を深みに誘ってしまったのではないか。
やはり不倫というのは不毛の愛なのだろうか。
この次に、また紀子のような子が俺の前に現れたとき、俺は「人を愛することは決して責められることではない」と言い切れるだろうか。
いつまでたっても結論は出ない。
紀子のことだって、これで良かったのかどうか、俺には結局分からない。
ますます迷うことが多くなっただけだ。
愛が綺麗事だけでは済まないことはよくわかっている。
結婚という形で、いちばんはじめに手をつけたやつが勝ちなのか。
そのあとで出会った愛は、すべて「不倫」という形で否定されてしまうのか。
不倫が否定されないとしたら、結婚という形で誓った愛の結末はどうなるのか。
離婚というかたちで切り捨ててしまうしかないのか。
それとも、二つの愛をそれぞれが認め合うという、そんな都合の良い形が許されるのか。
独身者の愛だってそうだ。
誰かを一途に愛するということは、他の誰かの愛は拒むということだ。
いくら一途に愛しても、相手が他の誰かを一途に愛していたら、その思いは決して受け入れてもらえないのだろうか。
ほんとうに人は二人以上を同時に愛することはないのか?
残酷なものなんだよ。愛するということは。
ある一面に限っての話だけどね。