【奈美の恋が終わったとき】A

(ムードはたっぷりだった)

船のデッキでたまたま出会って、海を見ながら話しているうちに、彼が別れた彼女の話を始めた。それまで二年以上もつきあっていた彼女とつい最近別れたという。しかも、お互いに嫌いになったわけではなく、彼女の父親が頑強に反対したために別れたのだという。奈美は彼に同情し、話しているうちに彼に強く惹かれるものを感じ、キスまでしてしまう。どうしてそんなことをしたのか彼女自身もわからないという。

彼と一緒の研修は、本当に楽しかったという。その奈美の表情が変わってきたのは、つきあいはじめてから三ケ月ほどたったころからだった。

初めは「彼が約束を守らない」という話だった。「電話をする」と言ってもしてこなかったり、「明日会おう」と約束しても、直前になって「だめになった」と言ってくる。それも、自分と約束した後に、友達から飲みに誘われたりすると、そっちに行ってしまう。そんな形で待たされることが多くなり、奈美の不満が積もってきた。しかし、奈美の方も彼と会っているときには日頃不満に思っていることも言えなくなり、彼に合わせてしまう。そんなことが続いているうちに、彼がある宗教の信者だということがわかってきた。彼が奈美に会えないのは、仕事や友達との付き合いがあるだけではなく、その宗教の活動にかなりの時間をとられているためだった。

彼から話を聞いて、彼が自分の信仰を隠していたのではないということはわかった。しかし、奈美はやはり釈然としなかった。自分は彼にとっていったい何なのか。彼女は彼に自分の方をしっかりと見て欲しかった。自分が一番でいたかった。しかし、彼にとっては自分より信仰の方が大切なのではないか。

信仰を持つものにとって、信仰と恋とは全く別次元のことなのかも知れない。だが、信仰を持たない彼女にはそこのところが理解できなかった。

続く

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