【ちさと】
川岸で、足元の小石を水の中に投げ込んで、「まだ、だれにも心を開いたことはないんです」と言っていたおまえ。
変におとなびた表情と子供っぽい笑顔が同居していたおまえ。
高校生の頃からいろんな男とつきあい、酒を飲み、夜遊びをし、決して良い子ではなかったおまえ。
男とホテルに入って行ったという話もずいぶん聞いた。それなのに最後のところで男を拒むのだという話も………。
そして、おまえの身体を求めた男達はつぎつぎに去っていった。
俺はただ、なすすべもなくそれを見ていた。あのとき俺が何を言っても、まえは聞きはしなかっただろう。
小学校の時までしか写真が貼っていないアルバム。
あの、あどげない笑額から今のおまえに至る過程に何があったのか。
そのアルバムも押入れの奥にしまわれて、めったに取り出されることもない。
ときどきポツンとやってきては、とりとめのない話をしていく。あれがおまえの泣きかただということがわかったのは、あのアルバムを見てからだった。
寂しかったんだろうな。
だれもおまえを理解しようとする者がいなかったんだよな。
おまえに新しい彼ができて、そしてついにおまえが彼にすべてを与えたという話を聞いた。
そのときの俺の複雑な気持ちをわかってもらえるだろうか。
そして、しばらくしておまえが彼と幸せにしているという話が聞こえてきた。
(おまえ自身は、もう1年も俺に連絡してこない。)
やがて俺の所におまえの写真が届いた。
その写真は、俺にとってすごいショックだった。
そこに写っていたのは、屈託のない明るい笑顔の女の子だった。
ごく普通の女の子だった。
あの、河原で石を投げでいた子と同じ子だとは、とうてい思えなかった。
そして、彼の話が伝えられてきた。
そこには、本当のおまえの姿を見た男がいた。
それまでのおまえの姿は、心を閉ざしたおまえが作りあげた虚像だということを理解した男の姿があった。
「あいつは救われたんだ。」
俺はそう思った。
ひとりの男がひとりの女を救ったんだ。
それは俺なんかにはとうていできないことだった。
………よかったな。
たいせつにするんだぞ。
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