【こっこへの手紙】

久しぶりの手紙ですね。元気そうなので、よかったと言いたいところですが、…………先生は怒っているんだぞ、という手紙です。

ついに彼を部屋に入れてしまったようだね。以前、こっこに「彼を部屋に入れてはいけない」と言ったとき、こっこはその理由を充分理解したと思っていたのだけど。

まあ、男女の間というのは、そう理屈通りにはいかないものだよね。俺も、彼を部屋に入れるなというのがかなりきつい要求だというのは分かっていた。でも、なんとかそこでブレーキをかけてほしかったね。いまさら言ってもしかたがないことだけど。……今からもう彼を部屋に入れるのをやめろと言っても、無理だろう?

こっこは結婚しないと言っていたよね。じゃあ、彼とのつきあいはどう考えているのだろう。進歩的な、フィフティ・フィフティのつきあいだと思っているのだろうか。彼との身体のつながりは、ただの精神的なっながりの延長なのだろうか。今のこっこの彼に対する気持ちを冷静に考えてほしい。

俺はこっこが「結婚しない」と言うのを聞いて、なにかとっても不自然な感じがした。説得力がないんだよ。「結婚しない」ということが、男にとっても女にとってもすごく難しいんだということを理解しているのだろうか。俺にはこっこの「結婚しない」は、中学生位の女の子が「私、一生結婚しない」と言っているのと同じ程度にしか感じない。

確かに今、女性が仕事をするのがあたりまえになり、結婚しない人も多くなってきた。しかし、その人達は初めから「結婚しない」と決めていたのだろうか。俺はそうは思わないんだ。何か自分がどうしてもやりたいことがあって、そのことに全力を注ぎ込んだ結果なのではないだろうか。あるいは、職種によっては結婚して家庭を持ってしまったら両立が難しい職種もある。

だから、そこで結婚か仕事かの選択を迫られ、結果として仕事をとったのではないだろうか。それなら俺も納得できる。自分が納得してそうなったのであれば、それも立派な生き方だし、その中で生甲斐みたいなものもみつけられるだろう。そして、その様なしっかりした生き方をしている女性が対等の立場で男性とつきあうのであれば、それは見ているものにとってもとても爽やかなものに映るだろう。

今のこっこには、そのビジョンが見えない。

今、自分は何をしたいのか。これから何十年もの人生をどのように生きていきたいのか。しっかりした考えを持ってほしい。そのへんがあいまいなまま、シングルを通せるほど、世の中甘くはない。

本当に誰にも頼らず、生きていけるのか?。

「どうして結婚しないの?」という問いに、胸を張って答えることができるか?

それに対する明確な答えを持っことが、まず第一歩なのではないだろうか。

それから、絶対に子供をつくらないこと。今の日本の社会情勢の中で、未婚の母とその子供には想像以上のプレッシャーがかかる。母親のほうは自分が納得してそうなったのなら良いのかもしれないけど、そんなことに子供を道連れにしてはいけない。子供は母親の所有物ではないのだから。そして、子供には母親を選べないのだから。

「子供をつくらない」ということについては、こっこが彼との結婚を考えるようになっても同じこと。子供ができてしまって、それからあわてて結婚するというカップルも世の中には多いけれど、これもできるだけ避けた方がいい。

二人がまだ学生だということだけでなく、やはり結婚というのは周りのみんなに祝福されてするべきだと思う。たしかに、二十歳を過ぎれば結婚は自由だけど、その自由のためにこれまでの人間関係を壊してしまって良いとは思わない。

場合によっては、結婚しようと思っても、5年たっても6年たっても周りの理解が得られないという場合もある。その場合には俺だって、本人たちがしっかりしていれば、まわりの反対を振り切ってでも結婚しろと言うかもしれない。でも、やはりそれは「非常手段」なのだよ。できればそのようなことにはなってほしくない。だから、少なくとも子供はつくらないようにしてほしい。子供ができてしまえば、周りの理解を得るまでの時間が限られてしまうし、「子供ができた」というそのことで、二人の人格が問われ、反対されるかもしれない。そういう状況にはなってほしくない。

中絶というのは、論外だ。今、新しい薬もできて、中絶も初期ならばさほどの危険は伴わなくなった。しかし、心に残る傷というのはとても大きなものだ。

俺はこの前、真琴につきあって鎌倉の長谷観音に行ってきた。真琴のことは知っているよな。俺は真琴が彼と別れたのはほんとうに良かったと思っている。真琴も中絶のときに彼が来なかったということで、彼の本当の姿が見えたのだろう。しかし、代償は大きかった。真琴だって、身体にはさほどの傷は残っていない。手術だって、入院もせずに済んだくらいだ。おかげで真琴の両親は何も知らないままだ。

俺はやはりあの男が許せない。長谷観音で小さな水子地蔵を抱いて泣いていた真琴の姿をあの男にも見せてやりたかった。

「ここにいなければいけないのは、俺じゃなくておまえなんだぞ」って言ってやりたかった。もっとも、そんなことを言ってもあの男は何も感じないかもしれない。その程度の男だったのだろう。

こっこの彼がそうだと言っているわけじゃないよ。でもね、いつ間違って子供ができるかわからない。だから避妊には充分神経をつかってほしいんだよ。

そして、避妊に関しては男をあてにしてはいけないよ。それはわかるだろう?

今、女の側でできる避妊というのは限られているけど、こっこの場合、失敗は許されないのだから、しっかり考えてほしい。

こっこが何でも話してくれるから、俺のほうもずいぶんと立ち入った話をしてしまった。もう成人式を迎える女牲にたいして、失礼だったかもしれないけど、俺の気待ちだけは汲み取ってほしい。

これからも、幸せな生活が続くように。

9月18日

Kei

 

 

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